三ツ沢で会いましょう (最終回) - 砂漠に水を撒く経営 - | 普通の人が読むサッカー

三ツ沢で会いましょう (最終回) - 砂漠に水を撒く経営 -

 この連載が中断している間に、Jリーグはとっくに開幕し、横浜FCは2勝4分3敗というまったりとした成績を残しているようです。私も今非常にまったりとしています。この連載を終えるにあたってどう締めくくるべきか非常に悩んでいるのです。


 この連載の中で、私は横浜FCにまつわる複数の問題点を掲げてきました。この問題を解決する方法があるのかといわれれば、「ある」と答えます。私は先日までマーケティングプロモーションの仕事をしていましたが、そのキャリアの中で、「どのような問題であっても解決するプランは必ずある」と考えてきました。それと同時に「解決する可能性があるとわかっていても実行に移せないプランもある」ことを知っています。

 それは人的な理由だったり、金銭的な理由だったり、文化的な理由だったりと様々ですが、集約的には「会社の問題」であると言えます。

 最後に「サッカークラブの経営」の話をしてこの連載を終わりにすることにしましょう。


 J2のクラブの年間売り上げは平均で大体10億円ぐらいだそうです。売り上げが10億円というのは、学生にはわかりづらいと思いますが、要するに「ザ・中小企業」であると言えます。10億円というと社員数20人とかそのくらいで、今だと給料なんかもなかなか上がらなくって、出張申請すると社長がイヤーな顔をするみたいなイメージですが、J2のクラブなんてそんなもんだと思います。


 サッカークラブという商売の特徴はまず、固定費率が異常に高いことがあげられます。選手の人件費だとか、試合の運営費だとか、遠征費用だとか、儲かっていようが儲かっていまいが、一定の支払いが発生する経費が全体的に多いのです。

 また、安定収入源が少ないと言うことも重要です。チケット販売売り上げは雨が降ったり、チームの成績が悪くなると減ってしまいます。広告収入やグッズ販売は観客動員数に対して売り上げが変化しやすく、また国や地域の景気に左右されます。安定しているのは年間チケットや年間スポンサーぐらいです。ただし、年間チケットが売れるというのは人気があってこそで、かつ通常チケット販売とトレードオフの関係にあります。年間スポンサーと言ってもいいスポンサーはJ1チームが抑えてしまい、なかなかJ2まではまわってきません。

 サッカークラブはなにか具体的に資産となるものを生産するわけではないので、そこを担保に資金調達することはできません。ブランドとか育成した選手とか、事実上の資産と呼べるものがないわけではないですが、そこから直接資金調達できるわけではないので、資金繰りは大変厳しいでしょう。


 サッカークラブとは、いうなれば、「多額のローン返済に苦しむ、出来高払いのサラリーマン家庭」みたいなもんで、自転車操業を運命付けられています。

 自転車操業ですので、なにか大掛かりなアクションを起こすことは大変難しいのです。たとえばヨーロッパに選手を送り込んで1億円ぐらい儲かったということがあったとします。通常であれば、その資金を元手に、新たな投資を考えるわけですが、サッカークラブの場合、そのお金はなんかの時のためにとって置こうと考えがちです。そして、なんとなく徐々に目減りしていき、いつの間にかなくなっています。ベルマーレよ、中田英寿を売った金はどうした?

 通常なら「こんな会社やってらんねー」となるところですが、地域やJリーグに微妙に守られているので「農民は生かさぬよう殺さぬよう」の範囲内で何とかやりくりしています。


 経営に苦しむクラブが「じっくりと若手を育成して、長期的な視点で強化を・・・」みたいな事を言い出すことがあります。要するに裏を返せば、固定費を下げなければ不渡りを出しかねないので、人件費の安い若手選手だけでチームを作るということです。

 サッカーは選手のコンビネーションが重要なスポーツなので、若い選手や、能力的に一流ではない選手でも、長期間一緒にトレーニングすればチーム力は上がります。また、試合に出ることで成長する度合いが高いスポーツでもあるので、選手個々の育成の効率が上がります。

 で、そのやり方でチームとして結果を出てしまうと、再び人件費が上がり、育った選手を放出する羽目になります。そして、更なる若手を起用。また「じっくり育成」となり、チーム運営でも自転車操業です。それではチームとして結果出し続けることは難しく、クラブの経営規模はちっとも拡大しません。現在ジェフ千葉がその状況にあると言えます。


 せつねーなー。実にせつねーよ。


 辛抱利かない経営者であれば、サッカー事業そのものに見切りをつけ、安定している(と勝手に思っている)別の事業に手を出し、全体でリスクヘッジするというようなやり方を取るクラブも出てくるのではないか、と個人的には思っています。そのうち不動産とかに手を出すクラブが現れるでしょう。たぶん浦和レッズだと思います。っていうか「レッズランド構想」ってそういうことだと思ってます。しかし、大丈夫なのか?


 そんなわけで結構どん詰まり感が出てきたところで、長くなってきたので次回『三ツ沢で会いましょう (最終回 完結編)』につづく!