三ツ沢で会いましょう (5) - ひとりぼっちのスタジアム - | 普通の人が読むサッカー

三ツ沢で会いましょう (5) - ひとりぼっちのスタジアム -

 Jリーグは毎年ゴールデンウィークに「ファミリーJoinデイズ」という企画を行います。家族みんなでサッカー観戦に足を運んでもらうというこの企画は、昨年で5回目となり、評判も上々です。

 93年にJリーグが始まったとき、世界中を驚かせたのは、スタジアムに女性や子供たちの姿が数多く見られることでした。当時、サッカー先進国であるヨーロッパ諸国や南米では、フーリガンと呼ばれる暴力的なサポーター集団がスタジアム内外で頻繁に騒動を起こすため、女性や子供はサッカーの試合を観に行くことが難しくなっていました。サッカーは社会に貢献するものではなく、社会に問題をもたらすものとなっていました。
 Jリーグの成功は世界各国のサッカー関係者にとって、今後あるべきサッカーリーグ運営のひとつの理想像を示したのです。

 Jリーグに先立つこと半年前、サッカーの母国イングランドでは新プロリーグ・プレミアリーグが開始されています。フーリガン問題で最も頭を悩ませていたイングランドの各クラブは、スタジアムから暴力をなくすため、立見席をなくし、セキュリティを強化するなど、様々な改革を行いました。その結果、女性や子供がスタジアムに戻り、家族がいっしょに観戦することができるようになりました。
 観客が家族を連れてスタジアムに戻ってきたことで、営業効率が上がり入場料収入が増えただけでなく、スタジアムにクリーンなイメージを作り出し、多くのスポンサーを獲得することができるようになりました。
 プレミアリーグは現在では世界一のリーグと言われるまでに成長しています。

 Jリーグのホームページで観戦者調査報告という資料を見ることができます。このなかから「いったい誰と一緒にスタジアムに来場しているのか」をクラブ別に見ることができます。
 J2のチームのうち「ひとりで来ている」と答えた人が20%以上になるチームは5チームありました。5チームのうち最も「ひとりで来ている」と答えた人が多いのは横浜FCでした。全体の四分の一を超える26.0%の観客が一人で来ています。Jリーグ全体の平均値は12.6%ですので、他のクラブと大きな差があることがわかります。
 また、J2のチームのうち「家族で来ている」と答えた人の割合が40%以下のチームは2チームあります。最低はやはり横浜FCで、31.8%と三分の一を割り込んでおり、Jリーグ平均の45.2%から大きく離れています。

 このことから横浜FCは家族と最も縁の薄いクラブであると言うことができるでしょう。

 「ひとりで来ている」人が多い5チームにはある特徴があります。それはここ数年間観客動員の伸びがあまり見られないということです。また、「家族で来ている」人が少ない2チームのうち、もう一方は仙台ですが、優勝が絡んだ年だけ若干上昇し、絡まない年には減少しています。

 スポーツクラブを運営していくにあたって、『家族』をどう捕らえていくかはとても重要なテーマです。『家族』を惹きつけることによって、直接的な経済的メリットだけでなく、間接的なメリットを得ることもできます。また、『家族』は親から子へ、子から孫へとその価値観を受け継いでいきますので、長期的な観点に立てば、『家族』に支持されることで、クラブは強力なサポートを得たことになります。

 Jリーグ各クラブにはサポーターと呼ばれる熱狂的なクラブの支持者がいます。彼らの多くは若い男性で、彼らは一年を通して、ホーム・アウェイにかかわらず試合に足を運び、クラブを支持し続けます。彼らの存在はクラブにとって大きな支えであることは間違いありません。
 しかし、クラブを発展させる上で、『家族』をどれだけスタジアムに呼び寄せることができるのかは、とても大きな鍵となっています。『家族』に愛される存在となりえるのかが、横浜FCの未来を左右することでしょう。