三ツ沢で会いましょう (4) - 横浜、営業マンの墓場 - | 普通の人が読むサッカー

三ツ沢で会いましょう (4) - 横浜、営業マンの墓場 -

 毎年のように、ビジネス誌は『新マーケティング用語』を作って、世の中のサラリーマンを悩ませ、苦しめています。
 新しいやり方や考え方なんてそんなにポンポン生まれるわけなくて、『新マーケティング用語』のほとんどは、あたりまえのことを別の言葉に置き換えただけだったりします。
 ですが、ビジネス誌の影響力と言うのは恐ろしいもので、あたりまえのことがどんどん大掛かりになり、散々振り回された上、気がつくと単なるブームに終わっています。

 私が一番しんどかったのが『エリアマーケティング』という言葉です。平たく言うと「地域によって、環境も、人の考え方も、いろいろな条件が異なっているのだから、それぞれちゃんと考えて商売しないとダメよ」と言うことです。まあこれもあたりまえです。
 これが何でしんどかったかと言うと、色々な人間がその地域にわざわざ調査に行かねばならないという体力的な面と、結局市場を小さく切って考えるので話がセコくなってしまうと言う精神的なところにあります。

 おまけに、最後にとてつもない落とし穴が待っていました。この理屈で言うと「東京に近くて、市場が大きいところでやればいいじゃない」という結論にたどりつきます。
 つまり、横浜です。

 横浜市の主な鉄道路線を三つのエリアに区切ってみました。路線図から判断するとこれらのエリアはそれぞれ独立しています。隣のエリアへ移動するには、いったん市外に出るか、横浜市中央部にいったん出るしかありません。直接隣のエリアに移動できないわけです。このことから、横浜市は移動の上で、複数に分断されたエリアを持つことがわかります。

 この図はもう一つの意味を持ちます。前回、横浜市に住んでいて横浜市に活動拠点がない人々の話をしましたが、15歳以上の就業者のうち東京都で就業する人の分布を横浜市のホームページから確認することができます。
 まず気になるのが東急田園都市線と東急東横線沿いの東京都就業者の多さです。これは図の赤いエリアに該当します。真ん中あたりは東京都就業者はそう多くない気がしますが、その真ん中を横断するように市営4号線が建設中ですので、いずれこのエリアも東京都就業者で溢れることでしょう。休日はおそらく横浜中心部よりもアクセスしやすい渋谷、町田といった東京都内の繁華街へ出かけるはずです。
 黄色のエリアは、赤のエリアほどではありませんが東京都就業者の多いエリアです。このエリアは、JR東海道線、横須賀線、京浜東北線(根岸線)、京急本線と、都心部に直結する路線が走っています。なので、距離はあるのですが、東京へのアクセスは非常に簡単です。休日は近所の横浜中心部に出かけることでしょう。
 青のエリアは、東京都就業者の少ないエリアです。このエリアはいったん横浜中央部に出るか、あるいは藤沢市、大和市などを経由して北上しないと都心に出られないため、東京都就業者は非常に少ないです。休日出かけるならは横浜中心部を選ぶことでしょう。

 横浜市民は互いに分断されたエリアに住み、別々の行動パターンで生活する人々です。横浜市とは単なる行政区分にすぎず、この枠組みでひとつのエリアと捕らえることにはかなりの無理があります。
 ですので、横浜を担当することになった営業マンはえらい目に会います。通常のエリアよりもはるかに手間がかかり、営業効率が非常に悪いからです。

 横浜マリノスは2003年、2004年と二年連続でJリーグチャンピオンになりました。ですが、マリノスの試合が満員になることはほとんどありません。横浜FCにいたっては数千人がいいところです。
 これは単にこの2つのクラブの営業マンの努力不足というわけにはいかないでしょう。彼らはもともと、非常に難しい環境で仕事をすることを余儀なくされているのです。

 横浜市はこの問題を解決するため、横浜環状鉄道という横浜中心部を軸に、分断された各エリアをつなぐ鉄道網の建設計画を立てています。上記の市営地下鉄4号線はその一環であり、平成19年に開通の予定です。
 ですが、横浜環状鉄道には、4号線以降の具体的な予定はまだありません。