三ツ沢で会いましょう (3) - 分裂する横浜 - | 普通の人が読むサッカー

三ツ沢で会いましょう (3) - 分裂する横浜 -

 1982年、私は奈良県の片田舎に住んでいました。その年、阪神タイガースが優勝し、街は大フィーバーになりました。街中いたるところに黄色と黒の縦縞の旗がたなびき、スーパーはもちろん、おばちゃんが一人で運営するタバコ屋までが、優勝記念セールを行っていました。大人たちは口を開けば阪神の話題で持ちきり、私の通っていた小学校では宿題が一週間免除になりました。本当です。

 1998年、横浜ベイスターズは38年ぶりにプロ野球で日本一に輝きました。テレビでは大いに盛り上がる若者たちの熱狂が映し出されていました。
 その翌日、当時横浜の実家に住んでいた私は地元の駅前の様子に驚愕しました。そこには優勝の高揚感を伝える物が全くと言っていいほどなかったからです。

 平成12年の国勢調査によると、横浜市に住んでいて、会社で働いたり学校に通っていたりする人は218万人でした。このうち、勤め先、学校が横浜市以外の場所にある人は73万人もいます。つまり、全体の三分の一が横浜市以外に活動拠点をおいていることになります。その人たちが実際どこで働いたり、学んだりしているかというと、66%の48万人が東京都です。

 前回、横浜市は『子だくさん貧乏』という話をしましたが、その原因については触れませんでした。横浜市が『子だくさん貧乏』である大きな理由の一つが、この横浜市の巨大な人口移動にあります。

 地方自治体は市民から市民税を取り立てています。市民税は税収の大きな柱であり、政令指定都市の場合、45%~55%が市民税収入となっているようです。市民税は2種類あり、一つは会社や団体が払う法人市民税、もう一つは我々が払う個人市民税です。
 法人市民税は、その法人が登記された自治体に市民税を払います。例えば、東京都にある会社の従業員が全員アメリカ人だったとしても、基本的に東京都に払います。
 個人市民税は世帯に対して徴収されますので、働いている市民の数が多ければ、税収の金額は大きくなります。ただし、市民の数が増えれば、それだけ多くの市民サービスコストがかかってしまいます。なので、個人市民税以外の収入が増えなければ、市民一人あたりのサービス金額は劣化してしまいます。
 横浜市はまさにこの状態にあるわけです。

 問題は税収だけではありません。横浜市に住んでいながら活動拠点が他にある人々とは『政治的に横浜市民であり、文化的に浜っ子でない人々』と言うことができます。
 1998年の横浜ベイスターズ優勝の悲劇はこうして起こりました。当時私の実家があった場所というのは『文化的に浜っ子でない人々』が数多く住む地域でした。そして私の家族も、私自身も『文化的に浜っ子でない人々』でした。

 1993年、Jリーグが開幕した時、私は鹿島アントラーズを応援していました。理由は「ジーコが好きだったから」です。しかし、その裏にあるものは「地元にチームがなかったから」であることは否定できません。私は『政治的に横浜市民』であっても、『文化的に浜っ子』にはなれなかったのです。
 Jリーグは地域密着の理念を掲げスタートしました。しかし、対象となる地域そのものが理念の上にしか存在しなかったとしたら、果たして地域密着は成立するのでしょうか。

 2005年、私は未だに、ジーコの去った鹿島アントラーズを応援し続けています。