私たちは忘れないでしょう | 普通の人が読むサッカー

私たちは忘れないでしょう

「いつもの空、いつもの風、そして、いつもの芝。
 しかし、空気だけは今年は違います。第78回天皇杯決勝戦。
 全国に共感を巻き起こしながら、今日最後の横浜フリューゲルス。
 対する清水エスパルスは、初めての決勝戦です。」


   99年1月1日第78回天皇杯決勝
   NHK山本浩アナウンサー試合前のコメント


 今シーズンの天皇杯決勝は例年通り1月1日に行われます。決勝の顔ぶれはジュビロ磐田と東京ヴェルディという、あまり新鮮味のない戦いです。ですが、天皇杯決勝は結構いい試合になることが多いので、両チームの健闘にぜひ期待したいところです。

 ところで、私は毎年天皇杯決勝が近づくと、98年に起こった大事件思い出してしまいます。日本がワールドカップに初出場した記念すべき年に起こったもうひとつの事件。わたしの横浜市民なのに『マリノス?うーん』を決定付けた事件でもあります。

 横浜フリューゲルスは93年のJリーグ開幕時から参加していた強豪チームでした。前園真聖、山口素弘、三浦淳宏、楢崎正剛といった、数多くの代表選手を輩出し、ジーニョ、セザール・サンパイオといった、現役ブラジル代表選手もプレーしていました。

 しかし、バブル崩壊後の不況のあおりを受けて、メインスポンサーが撤退し、経営難が発生。母体企業であった全日空は横浜マリノスとの合併を決断しました。

 合併と言っても、マリノスの選手はほぼ現状どうりで、フリューゲルスの選手のうち新チームに残るのは数名。ユニフォームはマリノスのものを使用。新チーム名は『横浜Fマリノス』ということで、フリューゲルスは事実上消滅することになってしまいました。

 サポーターは怒りました。選手も泣きました。もちろん私も横浜の一市民として怒り狂いました。『地元密着、地域貢献』と言いながら、『営業成績が悪いのでやめます』ってお前ら横浜市民をなめてんのか!ということで、強烈な反対運動が巻き起こり、ここぞとばかりにマスコミも飛びつき、てんやわんやの大騒ぎになりました。

 で、どうなったかというと、サポーター有志によって、横浜FCという、日本で最初の100%市民クラブが誕生する(実際は多々問題あり)ことになるのですが、それはそれ、フリューゲルスというチームは98年のシーズンを最後にやっぱり消滅することになってしまいました。

 フリューゲルスが最後に参加したのが第78回天皇杯です。この大会、フリューゲルスは強烈なパワーで勝ちつづけ、ついに決勝まで駒を進めることになりました。98年で終わるはずのチームが、たった一日だけ99年まで生きながらえたわけです。

 で、決勝戦の結果はどうだったかと言うと、

 勝ったよ。
 もちろん勝った!
 ブラボー!フリューゲルス!

「私たちは忘れないでしょう。
 横浜フリューゲルスという非常に強いチームがあったことを。
 東京国立競技場、空はまだ、
 横浜フリューゲルスのブルーに染まっています」


   99年1月1日第78回天皇杯決勝
   NHK山本浩アナウンサー試合後のコメント




------------------------------------------------
●第78回天皇杯決勝

横浜フリューゲルス 2-1 清水エスパルス

 得点 横浜:久保山、吉田
    清水:沢登

横浜フリューゲルス出場メンバー
GK 楢崎
DF 原田、前田、佐藤(尽)
MF 山口、サンパイオ、波戸、永井、三浦
FW 久保山、吉田

交代 アンデルソン
------------------------------------------------