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三ツ沢で会いましょう (最終回) - 砂漠に水を撒く経営 -

 この連載が中断している間に、Jリーグはとっくに開幕し、横浜FCは2勝4分3敗というまったりとした成績を残しているようです。私も今非常にまったりとしています。この連載を終えるにあたってどう締めくくるべきか非常に悩んでいるのです。


 この連載の中で、私は横浜FCにまつわる複数の問題点を掲げてきました。この問題を解決する方法があるのかといわれれば、「ある」と答えます。私は先日までマーケティングプロモーションの仕事をしていましたが、そのキャリアの中で、「どのような問題であっても解決するプランは必ずある」と考えてきました。それと同時に「解決する可能性があるとわかっていても実行に移せないプランもある」ことを知っています。

 それは人的な理由だったり、金銭的な理由だったり、文化的な理由だったりと様々ですが、集約的には「会社の問題」であると言えます。

 最後に「サッカークラブの経営」の話をしてこの連載を終わりにすることにしましょう。


 J2のクラブの年間売り上げは平均で大体10億円ぐらいだそうです。売り上げが10億円というのは、学生にはわかりづらいと思いますが、要するに「ザ・中小企業」であると言えます。10億円というと社員数20人とかそのくらいで、今だと給料なんかもなかなか上がらなくって、出張申請すると社長がイヤーな顔をするみたいなイメージですが、J2のクラブなんてそんなもんだと思います。


 サッカークラブという商売の特徴はまず、固定費率が異常に高いことがあげられます。選手の人件費だとか、試合の運営費だとか、遠征費用だとか、儲かっていようが儲かっていまいが、一定の支払いが発生する経費が全体的に多いのです。

 また、安定収入源が少ないと言うことも重要です。チケット販売売り上げは雨が降ったり、チームの成績が悪くなると減ってしまいます。広告収入やグッズ販売は観客動員数に対して売り上げが変化しやすく、また国や地域の景気に左右されます。安定しているのは年間チケットや年間スポンサーぐらいです。ただし、年間チケットが売れるというのは人気があってこそで、かつ通常チケット販売とトレードオフの関係にあります。年間スポンサーと言ってもいいスポンサーはJ1チームが抑えてしまい、なかなかJ2まではまわってきません。

 サッカークラブはなにか具体的に資産となるものを生産するわけではないので、そこを担保に資金調達することはできません。ブランドとか育成した選手とか、事実上の資産と呼べるものがないわけではないですが、そこから直接資金調達できるわけではないので、資金繰りは大変厳しいでしょう。


 サッカークラブとは、いうなれば、「多額のローン返済に苦しむ、出来高払いのサラリーマン家庭」みたいなもんで、自転車操業を運命付けられています。

 自転車操業ですので、なにか大掛かりなアクションを起こすことは大変難しいのです。たとえばヨーロッパに選手を送り込んで1億円ぐらい儲かったということがあったとします。通常であれば、その資金を元手に、新たな投資を考えるわけですが、サッカークラブの場合、そのお金はなんかの時のためにとって置こうと考えがちです。そして、なんとなく徐々に目減りしていき、いつの間にかなくなっています。ベルマーレよ、中田英寿を売った金はどうした?

 通常なら「こんな会社やってらんねー」となるところですが、地域やJリーグに微妙に守られているので「農民は生かさぬよう殺さぬよう」の範囲内で何とかやりくりしています。


 経営に苦しむクラブが「じっくりと若手を育成して、長期的な視点で強化を・・・」みたいな事を言い出すことがあります。要するに裏を返せば、固定費を下げなければ不渡りを出しかねないので、人件費の安い若手選手だけでチームを作るということです。

 サッカーは選手のコンビネーションが重要なスポーツなので、若い選手や、能力的に一流ではない選手でも、長期間一緒にトレーニングすればチーム力は上がります。また、試合に出ることで成長する度合いが高いスポーツでもあるので、選手個々の育成の効率が上がります。

 で、そのやり方でチームとして結果を出てしまうと、再び人件費が上がり、育った選手を放出する羽目になります。そして、更なる若手を起用。また「じっくり育成」となり、チーム運営でも自転車操業です。それではチームとして結果出し続けることは難しく、クラブの経営規模はちっとも拡大しません。現在ジェフ千葉がその状況にあると言えます。


 せつねーなー。実にせつねーよ。


 辛抱利かない経営者であれば、サッカー事業そのものに見切りをつけ、安定している(と勝手に思っている)別の事業に手を出し、全体でリスクヘッジするというようなやり方を取るクラブも出てくるのではないか、と個人的には思っています。そのうち不動産とかに手を出すクラブが現れるでしょう。たぶん浦和レッズだと思います。っていうか「レッズランド構想」ってそういうことだと思ってます。しかし、大丈夫なのか?


 そんなわけで結構どん詰まり感が出てきたところで、長くなってきたので次回『三ツ沢で会いましょう (最終回 完結編)』につづく! 

更新が遅れてしまってスイマセン

ずいぶん更新が遅れています。
楽しみにして下さっているみなさんスイマセン。

現在の私はというと、
『開幕直前に代理人によって勝手に電撃移籍、
 しかもボランチにコンバート(ワンボランチ)』
みたいな状況です。

今日久々にブログを観ましたが、
更新してない間にも、読者が増えていたりして
申し訳ない気持ちでいっぱいです。

チームに慣れたらまた書きますのでしばらくお待ちください。

三ツ沢で会いましょう (6) - 30分をめぐる戦い -

 私の大学時代からの友人に、浦和レッズの試合をしょっちゅう見に行く人物がいます。彼は特に浦和レッズのファンというわけではなく、浦和レッズファンの彼女を持ってしまったので、半分仕方なく試合に足を運んでいるようです。
 彼の家から浦和レッズのホームスタジアムまでの所要時間は約1時間30分、「少し辛くなってきた」と言ってましたが、「オレなんか鹿島スタジアムまで3時間かかる」と言って慰めておきました。

 前回も使った観戦者調査報告という資料には、観戦者がいったいどれだけの時間をかけてスタジアムに足を運んでいるかを調べることができます。
 スタジアムによってもちろん差があるのですが、Jリーグ平均では36.2%が片道30分以内でスタジアムまで来ています。30分~60分の範囲では32.3%、60分~90分では12.4%、90分~120分で7.2%、120分以上は11.9%でした。
 時間が距離に比例すると考えれば、面積は距離の二乗ですから、スタジアムに近ければ近いほど、サッカー観戦者の密度が高くなっていると言えます。まあ、あたりまえのことですが、サッカーを見に行くための条件の一つは近所にスタジアムがあることだと言えそうです。

 上の地図の青い線は、横浜FCのホームスタジアムである三ツ沢球技場からなんとか30分以内でいけそうな範囲を鉄道路線で示しています。この青い線の周辺エリアが横浜FCの試合を見に行きやすいエリアということですので、つまり、横浜FCがファンを獲得するために最適のエリアといえます。
 一方、横浜F・マリノスのホームスタジアムである横浜国際競技場から30分の路線を赤い線で示してみました。また、横浜国際は三ツ沢と違い駐車場が充実していますので、車を利用した場合に30分で行ける範囲を赤のグラデーションで示してみました。
 ご覧になってわかるとおり、中心部から北にかけて、横浜FCとF・マリノスのエリアは実は大きくかぶっているのです。

 横浜FCとF・マリノスの互いのファンは、このように混在したエリアに住んでいる可能性があります。とくに混在していると思われるエリアを黄色で示してみました。ファン獲得のためには、この混在エリアでの営業活動が重要なポイントとなって来るでしょう。
 逆を言えば、南側のエリアでは横浜FC有利と言えないこともありません。地図の南側のエリアでは三ツ沢のほうがアクセスが良いからです。
 この連載を始めて一ヶ月、ついに横浜FC有利のデータがあらわれたのかもしれません。

 ところがそうは問屋が卸さないのが、F・マリノスです。
 F・マリノスは先日、横浜市の中心部みなとみらい地区にゴージャスなクラブハウスと練習場を建設することを発表しました。この地図で言えば桜木町のあたりです。さらに、横浜市の南にある横須賀市をセカンドホームタウンにしてしまいました。
 横浜市のど真ん中に営業拠点を設置し、南からもじわじわと横浜市民を取り込んでいくとは! さすがはJリーグチャンピオン。大人げないが、壮大な作戦です。

 どうする!どうなる!横浜FC!

 次回『三ツ沢で会いましょう』ついに感動の最終回!

アジアでいつも負けてしまう話

 ワールドカップ最終予選第一戦は、ロスタイム、大黒将志選手の得点でなんとか北朝鮮に勝つことができました。いやーアジアは侮れません。

 一方そのころ、もうひとつのアジアの戦いが始まろうとしていました。ワールドカップや、アジアカップは代表チームの戦いですが、クラブチームのアジアの大会もあります。
 Jリーグチャンピオンになると、A3チャンピオンズカップとAFCチャンピオンズリーグの参加権が自動的に得られます。Jリーグからアジアへ、さらに大きな舞台で戦うチャンスが与えられるわけです。

 2004年のJリーグチャンピオン横浜・F・マリノスは東アジア3カ国のチャンピオンが集う、A3チャンピオンズカップに参加しました。で、昨日大会が終わり、マリノスは3位でした。
 なにやっとんじゃいマリノス!と普通ならなりそうなもんですが、Jリーグのクラブチームがアジアの舞台で負けるのはいつものことなので、特に何の問題にもならず、すぐに忘れ去られてしまうことでしょう。
 
 なぜJリーグチームがアジアの大会で負けてしまうかと言うと、真剣にやっていないからだと言われています。
 今回マリノスは口では「タイトルを取りに行く!」と勇ましかったのですが、選手にけが人やコンディション不良が相次ぎ、レギュラーとは程遠い状態で戦いました。前回はA3チャンピオンシップとAFCチャンピオンズリーグの日程が重なり、ユースの選手を試合に出していました。これではまともに準備してのぞんだとはとてもいえない状況です。
 こういうことはマリノスに限ったことではなく、Jリーグのほかのチームも同様です。アジアの試合に関しては「勝つように努力するが、勝つために無理はしない」というのがJリーグのクラブの基本的なスタンスです。
 なぜこういうことになるのかというと、理由は簡単です。儲からないからです。

 A3チチャンピオンズカップの優勝賞金は約4000万円、AFCチャンピオンズリーグは6000万円となっています。それに対してJリーグの優勝賞金は2億円、ナビスコカップや天皇杯でも1億円もらえます。Jリーグは開幕前にゼロックススーパーカップと言う一試合だけのエキシビジョンマッチを行いますが、一試合で、優勝賞金3000万円です。ちなみに、韓国Kリーグの優勝賞金は約1500万円だそうです。
 それでも、大会自体が盛り上がれば、やる意義もあるのですが、マスコミも、ファンもほとんどアジアの大会に興味を示しません。アジアの大会に出場することはほとんどボランティア扱いで、「罰ゲーム」と揶揄されることもあります。
 アジアで勝つより国内で勝つほうが実入りがよければ、営利企業であるプロクラブとしては国内重視の姿勢はやむえないでしょう。
 というわけで、なんとなく参加したマリノスはA3で負けてしまいました。

 ところが、AFCチャンピオンズリーグのほうはちょっと今年は毛色が違いそうです。今年からAFCチャンピオンズリーグに優勝すると、トヨタカップに変わって新しく誕生する世界クラブ選手権に出場できることになったのです。ヨーロッパや南米のクラブと世界一の座を争うチャンス!ということで、AFCチャンピオンズリーグは今年から盛り上がるかもしれません。
 今年のAFCチャンピオンズリーグは横浜・F・マリノスとジュビロ磐田が参加します。

 ということで、気になるAFCチャンピオンズリーグの日程なのですが、えー、私もよく知りません。


  ※「三ツ沢で会いましょう」は今週は一回お休みです。

三ツ沢で会いましょう (5) - ひとりぼっちのスタジアム -

 Jリーグは毎年ゴールデンウィークに「ファミリーJoinデイズ」という企画を行います。家族みんなでサッカー観戦に足を運んでもらうというこの企画は、昨年で5回目となり、評判も上々です。

 93年にJリーグが始まったとき、世界中を驚かせたのは、スタジアムに女性や子供たちの姿が数多く見られることでした。当時、サッカー先進国であるヨーロッパ諸国や南米では、フーリガンと呼ばれる暴力的なサポーター集団がスタジアム内外で頻繁に騒動を起こすため、女性や子供はサッカーの試合を観に行くことが難しくなっていました。サッカーは社会に貢献するものではなく、社会に問題をもたらすものとなっていました。
 Jリーグの成功は世界各国のサッカー関係者にとって、今後あるべきサッカーリーグ運営のひとつの理想像を示したのです。

 Jリーグに先立つこと半年前、サッカーの母国イングランドでは新プロリーグ・プレミアリーグが開始されています。フーリガン問題で最も頭を悩ませていたイングランドの各クラブは、スタジアムから暴力をなくすため、立見席をなくし、セキュリティを強化するなど、様々な改革を行いました。その結果、女性や子供がスタジアムに戻り、家族がいっしょに観戦することができるようになりました。
 観客が家族を連れてスタジアムに戻ってきたことで、営業効率が上がり入場料収入が増えただけでなく、スタジアムにクリーンなイメージを作り出し、多くのスポンサーを獲得することができるようになりました。
 プレミアリーグは現在では世界一のリーグと言われるまでに成長しています。

 Jリーグのホームページで観戦者調査報告という資料を見ることができます。このなかから「いったい誰と一緒にスタジアムに来場しているのか」をクラブ別に見ることができます。
 J2のチームのうち「ひとりで来ている」と答えた人が20%以上になるチームは5チームありました。5チームのうち最も「ひとりで来ている」と答えた人が多いのは横浜FCでした。全体の四分の一を超える26.0%の観客が一人で来ています。Jリーグ全体の平均値は12.6%ですので、他のクラブと大きな差があることがわかります。
 また、J2のチームのうち「家族で来ている」と答えた人の割合が40%以下のチームは2チームあります。最低はやはり横浜FCで、31.8%と三分の一を割り込んでおり、Jリーグ平均の45.2%から大きく離れています。

 このことから横浜FCは家族と最も縁の薄いクラブであると言うことができるでしょう。

 「ひとりで来ている」人が多い5チームにはある特徴があります。それはここ数年間観客動員の伸びがあまり見られないということです。また、「家族で来ている」人が少ない2チームのうち、もう一方は仙台ですが、優勝が絡んだ年だけ若干上昇し、絡まない年には減少しています。

 スポーツクラブを運営していくにあたって、『家族』をどう捕らえていくかはとても重要なテーマです。『家族』を惹きつけることによって、直接的な経済的メリットだけでなく、間接的なメリットを得ることもできます。また、『家族』は親から子へ、子から孫へとその価値観を受け継いでいきますので、長期的な観点に立てば、『家族』に支持されることで、クラブは強力なサポートを得たことになります。

 Jリーグ各クラブにはサポーターと呼ばれる熱狂的なクラブの支持者がいます。彼らの多くは若い男性で、彼らは一年を通して、ホーム・アウェイにかかわらず試合に足を運び、クラブを支持し続けます。彼らの存在はクラブにとって大きな支えであることは間違いありません。
 しかし、クラブを発展させる上で、『家族』をどれだけスタジアムに呼び寄せることができるのかは、とても大きな鍵となっています。『家族』に愛される存在となりえるのかが、横浜FCの未来を左右することでしょう。

三ツ沢で会いましょう (4) - 横浜、営業マンの墓場 -

 毎年のように、ビジネス誌は『新マーケティング用語』を作って、世の中のサラリーマンを悩ませ、苦しめています。
 新しいやり方や考え方なんてそんなにポンポン生まれるわけなくて、『新マーケティング用語』のほとんどは、あたりまえのことを別の言葉に置き換えただけだったりします。
 ですが、ビジネス誌の影響力と言うのは恐ろしいもので、あたりまえのことがどんどん大掛かりになり、散々振り回された上、気がつくと単なるブームに終わっています。

 私が一番しんどかったのが『エリアマーケティング』という言葉です。平たく言うと「地域によって、環境も、人の考え方も、いろいろな条件が異なっているのだから、それぞれちゃんと考えて商売しないとダメよ」と言うことです。まあこれもあたりまえです。
 これが何でしんどかったかと言うと、色々な人間がその地域にわざわざ調査に行かねばならないという体力的な面と、結局市場を小さく切って考えるので話がセコくなってしまうと言う精神的なところにあります。

 おまけに、最後にとてつもない落とし穴が待っていました。この理屈で言うと「東京に近くて、市場が大きいところでやればいいじゃない」という結論にたどりつきます。
 つまり、横浜です。

 横浜市の主な鉄道路線を三つのエリアに区切ってみました。路線図から判断するとこれらのエリアはそれぞれ独立しています。隣のエリアへ移動するには、いったん市外に出るか、横浜市中央部にいったん出るしかありません。直接隣のエリアに移動できないわけです。このことから、横浜市は移動の上で、複数に分断されたエリアを持つことがわかります。

 この図はもう一つの意味を持ちます。前回、横浜市に住んでいて横浜市に活動拠点がない人々の話をしましたが、15歳以上の就業者のうち東京都で就業する人の分布を横浜市のホームページから確認することができます。
 まず気になるのが東急田園都市線と東急東横線沿いの東京都就業者の多さです。これは図の赤いエリアに該当します。真ん中あたりは東京都就業者はそう多くない気がしますが、その真ん中を横断するように市営4号線が建設中ですので、いずれこのエリアも東京都就業者で溢れることでしょう。休日はおそらく横浜中心部よりもアクセスしやすい渋谷、町田といった東京都内の繁華街へ出かけるはずです。
 黄色のエリアは、赤のエリアほどではありませんが東京都就業者の多いエリアです。このエリアは、JR東海道線、横須賀線、京浜東北線(根岸線)、京急本線と、都心部に直結する路線が走っています。なので、距離はあるのですが、東京へのアクセスは非常に簡単です。休日は近所の横浜中心部に出かけることでしょう。
 青のエリアは、東京都就業者の少ないエリアです。このエリアはいったん横浜中央部に出るか、あるいは藤沢市、大和市などを経由して北上しないと都心に出られないため、東京都就業者は非常に少ないです。休日出かけるならは横浜中心部を選ぶことでしょう。

 横浜市民は互いに分断されたエリアに住み、別々の行動パターンで生活する人々です。横浜市とは単なる行政区分にすぎず、この枠組みでひとつのエリアと捕らえることにはかなりの無理があります。
 ですので、横浜を担当することになった営業マンはえらい目に会います。通常のエリアよりもはるかに手間がかかり、営業効率が非常に悪いからです。

 横浜マリノスは2003年、2004年と二年連続でJリーグチャンピオンになりました。ですが、マリノスの試合が満員になることはほとんどありません。横浜FCにいたっては数千人がいいところです。
 これは単にこの2つのクラブの営業マンの努力不足というわけにはいかないでしょう。彼らはもともと、非常に難しい環境で仕事をすることを余儀なくされているのです。

 横浜市はこの問題を解決するため、横浜環状鉄道という横浜中心部を軸に、分断された各エリアをつなぐ鉄道網の建設計画を立てています。上記の市営地下鉄4号線はその一環であり、平成19年に開通の予定です。
 ですが、横浜環状鉄道には、4号線以降の具体的な予定はまだありません。

三ツ沢で会いましょう (3) - 分裂する横浜 -

 1982年、私は奈良県の片田舎に住んでいました。その年、阪神タイガースが優勝し、街は大フィーバーになりました。街中いたるところに黄色と黒の縦縞の旗がたなびき、スーパーはもちろん、おばちゃんが一人で運営するタバコ屋までが、優勝記念セールを行っていました。大人たちは口を開けば阪神の話題で持ちきり、私の通っていた小学校では宿題が一週間免除になりました。本当です。

 1998年、横浜ベイスターズは38年ぶりにプロ野球で日本一に輝きました。テレビでは大いに盛り上がる若者たちの熱狂が映し出されていました。
 その翌日、当時横浜の実家に住んでいた私は地元の駅前の様子に驚愕しました。そこには優勝の高揚感を伝える物が全くと言っていいほどなかったからです。

 平成12年の国勢調査によると、横浜市に住んでいて、会社で働いたり学校に通っていたりする人は218万人でした。このうち、勤め先、学校が横浜市以外の場所にある人は73万人もいます。つまり、全体の三分の一が横浜市以外に活動拠点をおいていることになります。その人たちが実際どこで働いたり、学んだりしているかというと、66%の48万人が東京都です。

 前回、横浜市は『子だくさん貧乏』という話をしましたが、その原因については触れませんでした。横浜市が『子だくさん貧乏』である大きな理由の一つが、この横浜市の巨大な人口移動にあります。

 地方自治体は市民から市民税を取り立てています。市民税は税収の大きな柱であり、政令指定都市の場合、45%~55%が市民税収入となっているようです。市民税は2種類あり、一つは会社や団体が払う法人市民税、もう一つは我々が払う個人市民税です。
 法人市民税は、その法人が登記された自治体に市民税を払います。例えば、東京都にある会社の従業員が全員アメリカ人だったとしても、基本的に東京都に払います。
 個人市民税は世帯に対して徴収されますので、働いている市民の数が多ければ、税収の金額は大きくなります。ただし、市民の数が増えれば、それだけ多くの市民サービスコストがかかってしまいます。なので、個人市民税以外の収入が増えなければ、市民一人あたりのサービス金額は劣化してしまいます。
 横浜市はまさにこの状態にあるわけです。

 問題は税収だけではありません。横浜市に住んでいながら活動拠点が他にある人々とは『政治的に横浜市民であり、文化的に浜っ子でない人々』と言うことができます。
 1998年の横浜ベイスターズ優勝の悲劇はこうして起こりました。当時私の実家があった場所というのは『文化的に浜っ子でない人々』が数多く住む地域でした。そして私の家族も、私自身も『文化的に浜っ子でない人々』でした。

 1993年、Jリーグが開幕した時、私は鹿島アントラーズを応援していました。理由は「ジーコが好きだったから」です。しかし、その裏にあるものは「地元にチームがなかったから」であることは否定できません。私は『政治的に横浜市民』であっても、『文化的に浜っ子』にはなれなかったのです。
 Jリーグは地域密着の理念を掲げスタートしました。しかし、対象となる地域そのものが理念の上にしか存在しなかったとしたら、果たして地域密着は成立するのでしょうか。

 2005年、私は未だに、ジーコの去った鹿島アントラーズを応援し続けています。

三ツ沢で会いましょう (2) - グラウンド探して三千里 -

 『ハマスポどっとコム』という横浜市が運営するサイトがあります。このサイトから横浜市内の公共・民間のスポーツ施設が検索でき、市民が利用できるサッカーグラウンドも探すことができます。実際探してみると13件検索されました。
 しかし、横浜市には18の区があります。ですので、数字的には5つの区には、利用できるサッカーグラウンドはないと言うことになります。

 これではちょっとグラウンドの数が少ないのではないかと思われるかもしれません。もちろんこのサイトに登録されてないグラウンドもおそらくあるのでしょうが、横浜市はサッカーグラウンドの数が実際に少ないのです。

 社団法人横浜サッカー協会という組織があります。横浜市で活動するサッカーチームが登録されており、子供からシニアまで、各年代の大会を運営していますが、そうした大会のグラウンドの確保は大変です。横浜市の社会人リーグでさえ、年度によってはリーグ戦を全日程消化できないでいます。
 アマチュアならまだしも、実は、れっきとしたプロチームである横浜FCもまた、練習用のグラウンドをなかなか確保できないでいます。

 横浜FCのリトバルスキー元監督(元ドイツ代表)はチームについてのインタビューに答えるとき必ず「グラウンドがない!」とコメントしていました。この『横浜FCにまともな練習グラウンドがない』という事実は、リトバルスキーのコメントとともにFIFA(国際サッカー連盟)のホームページにも掲載されました。
 というわけで、ワールドカップ決勝戦の地にグラウンドがないという、ちょっと間抜けな事実は、ドイツを世界一にした往年の名プレイヤーの発言とともに、世界に発信されてしまったわけです。これでは横浜市民でなくとも、横浜市に抗議したくなるかもしれません。確かに、中田宏現横浜市長が今までにやったことと言えば『ゴミの分別を13種類に細分化しただけ』などと巷で言われているようです。

 下の数字は、代表的な政令指定都市の平成16年度予算です。この金額がすなわち、各都市の市民サービスに使われる金額です。

  横浜市   1兆3010億円
  大阪市   1兆7577億円
  名古屋市  1兆112億円

 いずれも日本を代表する都市ですので、1兆円を越す予算が組まれています。3つのうち、最も多いのが大阪市、真ん中が横浜市、少ないのが名古屋市です。しかし、これだけではなんともいえません。次を見て下さい。次に示したのは、各都市の予算額を人口で割ったもの、つまり市民一人当たりの予算額です。

  横浜市   36万5000円
  大阪市   66万7000円
  名古屋市  45万8000円

 予算総額では真ん中だったはずの横浜市は、一人当たり予算では最下位、しかも、大阪市と比べると30万円もの差があります。なぜこういうことになるかと言うと、大阪市の人口263万人、名古屋市220万人に比べ、横浜市は355万人と圧倒的に多いのです。
 この数字からわかるのは、横浜市は『子だくさん貧乏都市』であると言う、衝撃の事実なのです。横浜市はサッカーグラウンドを作らないのではありません。お金がないので作れないのです。

 確かにグラウンドの数は足りません。圧倒的に足りない。しかし、Jリーグが始まって、昔よりはましになりました。むしろ『子だくさん貧乏』にもかかわらす、6万人のスタジアムを建設し、そこにワールドカップ決勝を誘致したことはまさに偉業です。

 とはいっても『横浜FCにまともな練習グラウンドがない』という事実はなかなか変わらないでしょう。だからと言ってそのフラストレーションを、中田宏市長にぶつけるのは必ずしも正しいことではありません。
 横浜市の総世帯数は148万9727世帯です。一世帯あたり13個のゴミ箱需要が発生すると仮定すると、横浜市内において1936万6451個のゴミ箱消費が発生します。ゴミ箱の経済効果によって、横浜市の財政状況が好転することを祈りましょう。

三ツ沢で会いましょう (1) - 横浜FCはいつ私に気づくのか? -

 シーズンオフともなると、このブログもあまり書くことがなくなります。なので実は、Jリーグ開幕までお休みさせていただこうかと思っていたのですが、毎回読んでいただく方にそれは失礼なのではないかと言うことで、シーズン開始までの連載を開始しようと思います。
 で、12月に入ったあたりからから、何が良いかと考えていました。候補としては、

 『すぐに使える! 簡単フェイント』
 『5分でわかる! サッカー解説用語集』
 『目指せ!にわかサポーター Jリーグチーム紹介』

などを考えていたのですが、年末に書いた『私たちは忘れないでしょう』の評判が、思いのほか良かったので、横浜フリューゲルスの魂を受け継いだチーム、横浜FCについての私の熱い思いのたけをこのブログにぶつけることにしました。

 私は中学生のときに横浜市に引っ越してきて以来、かれこれ15年ほど(一人暮らしの4年間を除く)横浜市に住んでいます。私がサッカーを始めて観戦したのもちょうどそのころ(最初に観る試合9条件参照)ですので、サッカー観戦暦も15年ほどと言うことになります。

 昔ほどではなくなりましたが、今も頻繁に試合に足を運び、鹿島アントラーズのファンですが、川崎フロンターレの試合を見に行ったりもします。マリノスが好きではありませんが、横浜市民としてマリノス対フリューゲルスの横浜ダービーマッチ(同じホームタウン同士の対戦をこう呼びます)は極力見に行ってました。

 サッカー雑誌は頻繁に買います。DVDもたまに買います。グッズはタオルマフラーだけ買います。チケットがあまっていると聞くと「じゃあ、行くか」ってな感じで、興味があまりなかった試合でもお金を払います。一方、売り切れ必死の試合は「みんな観たいに決まっているのだから、自分は遠慮して、TVで見よう」という大人な面もあります。

 15年も観続けていると、酸いも甘いも噛みしめてきます。熱く戦術論を語る人には戦術論で返し、初心者には押し付けがましくないように心がけながら昨日の試合のコメントをします。サポーター席に座れば歌って踊って、指定席に座ればじっくり観戦。チームが負け続けても、チームバスに石を投げるようなまねはしません。ただただ次の試合の勝利を願います。

 どうですかみなさん。理想的なサッカーファンだと思いませんか?

 しかし、そんな理想的なサッカーファンのこの私でも、時にはやるせない思いに駆られることがあります。それは『横浜FCはいつ私に気づくのか?』ということです。
 横浜市には私と言う理想的なサッカーファンがいるにもかかわらず、横浜FCは直接的にも間接的にもまったくアプローチをしてきません。いつかその日のためにと、横浜FC情報を頻繁にチェックしますが、未だ彼らの試合を見たことがありません。
 横浜FC誕生から実に6年、私と彼らとの間にある溝は、果たして埋まる日が来るのでしょうか?

 おそらく、横浜市には私と同じような理想的なサッカーファンが大勢いるはずです。彼らは横浜FCからのアプローチを今か今かと待ち望んでいます。彼らはきっかけさえあれば、すぐにでも三ツ沢球技場に駆けつける人たちばかりです。

 連載のタイトルは『三ツ沢で会いましょう』にしました。
 それでは、2005年Jリーグ開幕までの、しばらくの間お付き合いください。

ジェフ磐田

「私はこれまで、シーズンの総勝ち点など、
 34ポイントまでしか数えたことがない。
 今季は既にその34ポイントに達している。
 だが60ポイントは要らない。
 だからウィンターブレーク中に、
 何人か選手を売ろうと考えている」
 

上のコメントはベルギーのRAAルビエロースというクラブの会長さんのコメントです。RAAルビエロースはベルギーリーグで決して強豪ではないチームですが、今シーズンどうしたことか上位につけてしまいました。さぞや大喜びと思いきや、あまりそうでもないようです。

 ヨーロッパや南米では選手を他チームに移籍させて、その移籍金で生計を立てているチームが多くあります。

 数学的にチャンピオンチームは年に1チームだけですので、すべてのチームが勝ちまくって客を呼んで、それでクラブ経営を成り立たせるのは現実的ではありません。浦和レッズのように勝っても負けてもお客さんが入ると言うのは理想的ですが、人口数万人の都市や、他に人気チームが存在する都市では、そういったことも難しいでしょう。そういったチームは無名の若手選手を発掘し、育てて、他チームに移籍させて、収入を得ます。

 そういったチームというのは、弱いともちろん話になりませんが、下手に優勝してしまっても困ります。優勝してしまうと、翌年の選手の年俸を多く払わないといけないからです。

 Jリーグでも似たようなコンセプトのチームがあります。ジェフユナイテッド市原がそうです。
 ジェフの歴史はまさに強豪チームへ引き抜かれる歴史です。

城 彰二 →横浜マリノス
酒井友之 →名古屋グランパス
山口 智 →ガンバ大阪
中西永輔 →横浜マリノス


 ざっと挙げただけでも、日本代表や五輪代表で活躍した優秀な選手ばかりです。そして今回、山本正邦新監督率いるジュビロ磐田が、元韓国代表チェヨンス選手(京都サンガにレンタル移籍中)、現役日本代表の茶野隆行選手、元ユース代表の村井慎二選手の3人を獲得しようとしています。
 さらに今期のキャプテンであり日本代表候補の阿部勇樹選手は毎年のように移籍の噂が絶えません。

 ジェフのファンは毎年のように、この時期、寂しい思いを味わっているようです。しかしながら、クラブとしては「これが私の生きる道」ということで、潔い生き方であると言えるでしょう。また、必然的に、毎年若いフレッシュな選手が登場すると言う意味では、ワクワク感満載です。

 切なくも、したたかなジェフ市原。皆さんもたまには応援してあげましょう。


ベルギーのRAAルビエロースというクラブの会長さんのコメント